取材日:2016年12月10日 インタビュイー:社会科 煙山哲史先生
インタビュアー:東京大学1年 平井貴之 吹奏楽部OB
平井:まず、先生になった一番の動機は何ですか。 煙山先生:どこかで話していると思うんだけど、話したことがなかったかな? 煙山先生:大学時代に家庭教師をしていたとき、母校の後輩を教えてくれって、当時担任の先生から頼まれたのがきっかけ。その生徒に教えているときに、教師になろうと、初めて思いました。 平井:それ、聞いたことありません。 煙山先生:僕が家庭教師で中学2年の生徒を教えていたときのことだけど、高校のときの担任の先生の口癖や喋っている内容をトレースしてそのまま喋っていた。それをその生徒に指摘されたんだ。そのとき知らず知らずのうちに、担任の先生のあれこれが自分の中にしみこんでいたんだと、初めて気がついたのが大学生のとき。教員って、なんて恐ろしい仕事だ、逆に面白いかもしれないと思ったのが、きっかけです。
平井:これまでに習ってきたなかで、尊敬できる先生を教えていただけますか。 煙山先生:高校で1年から3年まで、担任だった世界史の先生。背の高い僕よりもずっと身長があって声もでかかった。授業中に寝ていると、すっごく怒られた。終礼は気が遠くなるほど長い。(笑)おそらく影響を受けているんじゃないかと思います。 平井:なるほど。 煙山先生:友だちには板書や間の取り方が似ているって言われた。おそらく、その先生のいろんなものを無意識のうちに取り込んでいたんだと思います。
平井:教師になった直後と現在でご自身が大きく変わったことはありますか? 煙山先生:おそらく教員になってすぐの頃は、その先生の真似をしたり、自分が学生だったときの体験を参考にしていたと思います。君たちを中1から高3まで受け持って卒業させて以来、今はスタンスを変えて君たちをイメージして教えるようにしています。 平井:そうですよね。僕らが第一期世代ですよね。 煙山先生:初めての担任でした。6年間持ち上がったので、中2のとき、あんなに困った生徒だったのが、高3から大学生になったら、こんなに立派になったというのが少しイメージできたので、君たちを念頭においてというふうに変わったかな。君のことも、一例にさせてもらっていますので。(笑) 平井:今、担当は中2と何年生ですか。 煙山先生:中2と高3です。高3は去年のイメージのまま受け持っている。中学2年生に関しては、君たちが反抗期真っ盛りの中2だった頃を思い出しながら対応している感じかな。(笑)
平井:先生が好きな本、もしくは影響を受けた本はありますか。 煙山先生:高校生ぐらいのときに、沢木耕太郎の「深夜特急」を読んでから旅行に憧れて、自転車やバイクで日本中を旅してまわった。君たちに旅行の話をしたことがあったけど、それは沢木耕太郎の影響を受けてのことだと思う。もう少し遡って小中学生の頃だと、ファンタジー小説が好きだったんだ。「ナルニア国物語」や「ゲド戦記」の一番最初のページに出てくる地図に、とにかく心を奪われた。そんなところが、地理の教員につながったのかな。いろんな地域ごとにおいしそうな食べ物が出てきたり、違う気候だったりするところにも興味を引かれて、ファンタジーでも、現実の世界でもそれぞれに違いがある ということは面白いと感じていたんだなと、今は思います。
平井:生徒から、大学に行くとどんな良いことがありますか?と、質問されたらどう答えますか。
煙山先生:面白い奴がいっぱいいると思うと、何度か話したことがあるよね。
平井:はい。覚えています。
煙山先生:大学に行けば、そこにはいろんな地域からさまざまな人が集まって来ます。特に、うちは男子校でしょ。女子は全然違う考え方をするし、公立の生徒はまた違う考え方だし、地域が違えば考え方も違ってくるだろうし、そういう面白い人たちといっぱい出会えるっていうのが、大学に行く価値だと話したことがあったと思います。
平井:ありましたね。
煙山先生:君が、今まさにそう感じてくれているといいな。
平井:そうですね。まず共学と男子校って、ほんとに全然違いますね。
煙山先生:そこは大事なところかも。
編集部:どう違うのですか?
平井:言い方が悪いのですけれど、男子校生はやっぱり一癖も二癖もある生徒が多いんです。でも、共学の男子はいい意味でも悪い意味でもあっさりしているように、僕からは見えます。
煙山先生:共学の生徒は、やっぱり調整したり、周りに合わせたりするの?
平井:はい。
煙山先生:共学の生徒はすごく人付き合いが上手だなと思う。それに比べれば、男子校の生徒ってやっぱり不器用だなと思います。でも、その反面、芯が強いという要素もあるんじゃないのかな。いろんな人がいて面白いというのが、大学に行く意味の一つじゃないかなと思っています。もちろん高い水準の勉強をしたいという人もいると思うけれども、勉強が好きな生徒ってそんなに多くないと思うので、まずは多様な価値観を実体験するところから入ったらいいんじゃないかというつもりで、中学高校時代に君たちに言っていました。
平井:そうですね。先生は大学に入ってから、いろんなところへ旅行していたとおっしゃっていたじゃないですか。でも実際に入ってみると大学って、サークルなんかで案外忙しいんですよね。
煙山先生:大学も時代も違うからかもしれないけれど、時間は作るものです。 (笑)
平井:中高一貫校にあって、一般の中学校にないものといったら何でしょうか。
煙山先生:さっき、君が男子校の生徒には癖があると言っていたけれど、それはおそらく中高一貫校のことだと思う。良くも悪くも不器用なタイプもいるし、尖っていると表現してもいいかもしれない。個性が強いと言っていいのかもしれない。おそらく同じ環境のなかに6年間もいることで、染み込んでいくものがあることが、まさに中高一貫校の特色なんだと思います。逆に一般の中学校は3年しかないので、特定の色に染まりきらない良さがあって、フラットなタイプやナチュラルなタイプができるのかもしれない。
大学に行っていれば、中高一貫校出身者ってなんとなく癖やアクが強くて香りでわかるでしょう? 平井:はい、わかります。特に関東圏の名門私立校の人たちは、すぐにみんな察します。
煙山先生:自己紹介されなくとも、この人は中高一貫出身、この人はたぶん共学出身、公立出身と、わかるよな。
平井:はい、結構わかりますね。
煙山先生:これは、中高一貫校出身の人たちが皆持っている特殊能力じゃないかと思うんです。やっぱり、そこはかとなく香りがつくのだと思います。
平井:はい。先生も中高一貫の男子校ですよね。
煙山先生:そう、中高一貫の男子校。
平井:浅野にあってほかの私立にないものとは何か、先生のご意見をお聞かせいただけますか。
煙山先生:そう。僕もこの質問を君にしたかったのだけど、何かな?
平井:僕に聞くんですか?(笑) 神奈川県内の私立だと、浅野はどちらかといえば、フラットに近いですね。
煙山先生:フラットに近いか。
平井:真面目な人が多いというか、こいつはヤバイという人はあんまりいませんね。東京の名門校の人たちのなかには、ヤバそうな人がたくさんいます。だからそういう人を見てから同窓生で集まったりすると、なんか平らだなと感じます。
煙山先生:たしかに。(笑) 先ほどの話と若干矛盾するかもしれないけれど、浅野はフラットかもしれないな。少し丸みを帯びた感じの尖り方をしている。それでもやっぱり中高一貫の香りはする。浅野生を目の前にして、あんまり悪くは言えないんだけど。(笑)柔らかいんだと思うよ。寛容さがあるというのが、答えなのだと思う。
平井:そうですね。
煙山先生:フラットな印象の原因は何だろうかと、きのう何人かの先生と話してみた。浅野の場合、学年のフロアのなかにある学年控室にまで大人が常に温かく見守る環境が整っていることでカドが少し取れるのかなというのが、先生たちの意見でした。特に浅野は、関東圏からかなりの数の受験生が集まってくる学校なので、雑多な集団が形成されやすいんじゃないかな。だから特定のカラーリングが強く出ないんだと思います。
平井:そうですね。実際に、猪突猛進にやりたいことをやり尽くして大学に来ましたという人はいないですね。
煙山先生:ちょっと少ないよね。これからアクの強い人が出て欲しいという思いはある。だけど、それと同時に君たちのマイルドな優しい感じも残して欲しい。そこは難しいと思いながら、その話は考えますね。
平井:中学に合格した生徒に勉強以外で一生懸命取り組んでほしいことはどんなことですか。 煙山先生:ちょっと変な言い方だけど、まずは一生懸命取り組めるものを探すことです。 部活が一番簡単だと思いますが、部活じゃなくてもいいんです。せっかく中高一貫で6年間も時間があるので貪欲になってほしいと思います。本を読むのもいいし、旅行に行くのもいいし、目の前の部活や勉強に一生懸命打ち込むのもいい。何もないっていうのは、あまりに寂しい。だから趣味でもいいし、何か楽しいと思うことを見つけてくれればそれで十分満足です。 何かに一生懸命取り組むことは、意外に難しい。とかく中学生はグダーっとしがちだよね。何もやることが見当たらなくてということもあるかもしれないけれど、合格した後は何か面白いことを一生懸命探してほしいと思います。
平井:生徒からの相談で印象的な内容がありましたら教えてください。
煙山先生:毎日たくさんの相談を受けているので、一つを選ぶのは難しいです。生徒一人ずつの思い出と、すごくつながっています。君ともずいぶん面談しました。(笑) 平井:お世話になりました。(笑) 煙山先生:相談のなかでも、回数が多いのはやはり進路の面談です。やりたいことが見つからない、あるいはここに行きたいけれどお家の人とぶつかっている、そんな相談がいろいろあります。ある意味、君たちがなりふり構わず本心を一番さらけ出してくれるところが面談です。 平井:勉強以外で僕はあんまり相談に行ったことがなかったんですけれど、日常的にありましたか。 煙山先生:たくさんありますよ。 平井:そのなかに、面白い話がありましたか? 煙山先生:先生、なぜ女の子がいないんですかって。(笑) どうやったら男子校で彼女ができると思いますかと、涙ながらに相談されたことがある。相談に来たのは、中学3年生。その生徒は部活を引退して、一貫校で高校受験がないから、ポッカリ空いた気持ちを恋愛に使いたかったんだろう。恋愛感情を向ける先がないのですがどうしたらいいですかという不思議な相談に、僕も一緒に頭をひねった。(笑) 平井:それは独身の煙山先生に聞いても、一番意味のないことですね。 煙山先生:コラ、コラ。(笑) 平井:(笑)
平井:ふだんは、どんな教材を使って授業をされていますか。 煙山先生:本校はプロジェクターと電子黒板が全クラス完備なので、常にそれを使いながら授業をしています。 あとは、実際に授業で使っているプリントを持ってきました。僕の授業では基本的にプリントを1枚配った上で、地図帳、資料集、プロジェクターを使って授業します。地理の授業はどうしても地図や統計、あるいは写真ばっかりになります。できるだけ、それを見せるように心掛けていたのは伝わっていたでしょうか?(笑)平井:はい、先生のプリント大好きでしたから。 煙山先生:ありがとう。このプリントは、空欄は単語を埋める程度で、あとは図やグラフが多くて空いたスペースに自由にメモを書き込める作りにしています。統計の読み方は、教えるというよりも実際に地図を見たり、統計のどこに着目するかという力をつける訓練のほうが大切です。僕の授業では、君たちと一緒に同じ図を使って、この表のどの数字に注目するかという話をしていました。 平井:そうでした。懐かしいなあ。 煙山先生:君にとっては去年の話ですね。それと高3のプリントと中1のプリントをよく見ると、中1も高3もそんなに変わらない授業をしている。もちろん喋る言葉を優しくしたり、テンポを遅くしたりはしていたけれど、内容はそんなに変わらない授業だったよね。覚えているかな?これは、中1のときに話したよね? 平井:やりましたね。 煙山先生:中1に対しても、高3の東大向けクラスでも十分に通用する内容でやろうと意識してやっていた。せっかく浅野に入ってくれたのに、小学校や塾で既にやったよなんて絶対言われたくなかった。何かしらの知らない知識を入れてあげたいし、あるいは知っていることの裏はこうなんだよと教えてあげたいと思っていました。今から考えれば、むちゃかもしれないと思いますが、高校受験がない分、ゆっくり一つのことを掘り下げる授業をしていたつもりです。 平井:実際、伝わってきました。ランキングなんかは小学生のときに、知識として詰め込んでありましたから。 煙山先生:そうそう、君たちは順位や統計については語呂合わせでいっぱい知っているんだよね。だから数字は一切覚えなくていいと、口を酸っぱくして言っていた気がします。 平井:言っていましたね。理由づけをしてもらったので、僕はそれがすっごい好きでしたね。 煙山先生:そうですか。僕は、覚えてねってあまり言った記憶がないんです。たぶん、今もそうだと思います。ついこの間も、中2の授業で大統領選の開票速報を1時間も見ちゃったし、イギリスのEU離脱にも1か月使っちゃった。(笑)こんな感じで、知識ばかりを極端に網羅して詰め込むことは考えていません。特に中学生の場合は、一つのテーマをしっかり根元から理解してもらえる方がいいと思っているので、そんな授業を心掛けているつもりです。 「授業で使うオリジナルプリント:地理」 ⬇ ⬇ ⬇ 【※編集部注:浅野中学校に入学してくる生徒の多くは、中学受験時にすでにかなりの知識を習得しているため、知識を与えるだけの授業では満足しない。そのため、授業ではグラフや統計の意味を一歩掘り下げて生徒に理解させることを心がけてプリントを作成しているそうです。】
平井:生徒の観察を日々どのようにしていますか? 煙山先生:廊下から、見ることが多いんじゃないかと思います。先ほども話題になったように学年の教室の間に、その学年控室があります。そこに行くときに、必ず毎日、毎時間、どこかしらの教室の前を通ります。あとは、中学生の教室脇の廊下だと、あえてゆっくり歩く。 平井:そんなことをしていたんですね。 煙山先生:一つは、没収物を発見するため。もう一つはケンカをしていないかとか、誰が一人でいるのかとか。あるいは仲良くしているのは誰と誰なのかとか、そういった要素を見ていました。あとは君たちがガラスをたまに割ってしまっていたので、そういうことも大丈夫かなとか。 そんなふうに廊下からこっそり覗き見する以外に、自分の授業じゃないときの君たちの様子もよく覗いていましたね。平井:よくしていましたよね。 煙山先生:それは知っていたでしょ。バレバレでしたから。(笑) そうすると、自分の授業以外での生徒の顔が見えます。生徒に関して、僕の知らない一面があることに気づくこともあるんです。 平井:思えば、たしかにそうでしたよね。 煙山先生:なにも邪魔しているわけじゃないんだよ。暇なときに、常にジーっと見ているのは、授業している立場からいえばすごくイヤなことなんだけど。(笑) 控室が学年の教室間の真ん中にあるので、日常的によく見えるということは多いかな。あとは放課後に残っているメンバーに、ちょっかいをかけに行ったこともありましたね。そういうきっかけで話をすることが多いかな。 平井:たしかに、今となってはそんなところが浅野らしさを出しているのかなと思います。見守られている感がすごい強かったですもんね。なんだかんだ言っても、絶対によその学校でされていない授業です。
平井:いじめがあったとき、どのように対応しますか。まず、いじめはありましたか? 煙山先生:それはある。いじめは、どこの学校、どこの社会でもあると思います。そこでいじめが起きたときにどう対応するかですけど、絶対一人では対応しません。 たとえば君が僕のことを仮に信用してくれていて、こういうことがあるんですって報告してくれたときにはじっくり話は聞く。けれども、その話はおそらく僕一人では解決できないので、学年の先生たちと相談して事にあたります。というのも一番大事なのは、たとえば平井君が相談してくれたなら、まず平井君を絶対に守らなきゃいけない。となると平井君を守る立場と、他の生徒たちからの攻撃を止める立場と、あるいは君の仲間を探してあげる立場が必要になってくると思うし、それは一人の教員じゃ無理だと思うので、僕は絶対に一人では対応しません。浅野全体として、ルール化されているわけではないけれど、教職員みんながそう考えていますかね。平井:そのための控室みたいな感じですか。 煙山先生:そうですね。6人が、常に休み時間や放課後に情報交換しています。 いじめのときは、その6人で同時に話を聞くことができますから、そんな感じで対応しています。 森先生:それに付け加えると、いじめ発覚というか正式に認定されると委員会が作られます。学年プラスいろんな先生を巻き込んだ対策チームです。そういう二段構えで、対応していますね。 編集部:委員会は、よく作られるんですか? 森先生:いや、あまりないですね。 煙山先生:逆に、学年で止まっているんだと思う。 平井:最近では、いじめは当方では認知していませんでしたみたいなもみ消し事件がいろいろあるじゃないですか。そこは結構、難しいんじゃないんですか?どのレベルのいじめで、ちゃんと解決しているんですかね? 煙山先生:いじめの本質的な解決は、難しいよね。特に中学生ぐらいだと、少し距離を取りましょうってことで落ち着いたり、あるいは干渉しあわないという形で解決したりすることがどうしても多い。基本的にいじめの定義は、された側がどう感じるかだけなので、学校としてはその生徒がイヤな思いをしないように徹底的に守ることしかできないときもあります。でもそんなふうにやっていれば、いじめがあっても収束してくれるのではないかとも思います。 平井:僕が学校にいたときは、いじめがあるという印象はあまりなかったのですが。 煙山先生:うーん。それは。 平井:陰険なものはなかった。ちょっとグループで孤立しちゃった人程度の話は、何個か聞いたことはありましたけれど。 煙山先生:それも受け取り手にとっては、いじめだよね。同じことでも誰が受け取るかで、いじめかどうかは変わってくるので、その生徒がいじめだと思ったならば、教員側はいじめとして対応しなきゃいけないと思う。でもあまりやりすぎても、その生徒の立場が逆に悪くなってしまうこともあるから、そのあたりのバランスを取りながら対応することになる。これは僕個人の意見ではなく、学年でちょうどいい妥協点を模索しながらやっていることです。
平井:落ちこぼれた生徒には、どのように対応されていますか。 煙山先生:落ちこぼれた生徒への対応は、基本的にはまず落ちこぼれないようにすることが大事だと思います。 授業でなんとか引っ張って行くことが一番ですが、たとえば定期試験の目標点が60点だったら60点以上取れなければ合格するまで何度でも追試を受けてもらう。それは、特に英語と数学を中心にやっています。あとは夏休み中に指名者という形で呼び出して補習を受けてもらったり、あとは放課後の居残り講習です。特に中学時代は、補習と追試が多いと思います。平井:それでも拾いきれない生徒さんやっぱりいましたよね? 煙山先生:そうですね。その生徒にとって浅野にいることがつらいんだったら、ほかに行く手はあると思うと言って転校した生徒もなかにはいます。やはりこちらの力不足もあって勉強について行けない、あるいは勉強が面白いと思えないという生徒が出てくるのはとても寂しいことです。ただその生徒が環境を変えて上手くいくのであれば、そちらの方向で事を進めることはゼロではありません。 平井:落ちこぼれた生徒に対して、先生方のチームで対応する仕組みはありますか。 煙山先生:はい。そこは追試の日が重ならないようにしたり、追試科目の日にちを少し離すような調整をしています。たとえば英語と数学をやるんだったら、国語は次の週にとか。ほかの科目が小テストをやっていないんだったら、社会をやっていいですかというような話を学年控室で話して、教科のバランスを取っています。そうしないと準備ができなくて、いつまでたっても合格しないんですよ。そんなことが、チームとしての対応になっていると思います。極端な負担を生徒に課すようなことはしていないつもりです。 平井:おかげさまで、追試には散々お世話になりました。追追追試ぐらいまでありますよね。(笑)
平井:さて、先生は人気があると思いますか。 煙山先生:お前、嫌な質問をするなー。(笑)これについては、わかりません。卒業生が訪ねて来てくれると、人気あるのかなと思うこともあるけれど、一方で、やっぱり僕の顔を見たくない生徒もいると思う。生徒指導部だったこともあるから。また、そんなことに関係なく、そりが合わないと思った生徒もいるんじゃないかと思います。いまだに僕の気配を感じたら、逃げていく卒業生もいるからね。(笑) 平井:(笑) 煙山先生:なので、その点はプラマイゼロでいいですか?(笑) ほかの先生とはそりが合わないけれど、僕とはそりが合う。その逆も然りで、 それでいいと、僕は個人的に思っています。 ただ僕の個人的な印象としては、どちらかというと良い意味で手のかかる生徒から好かれる傾向がある気がする。(笑) 面談をすると、話がすごく長い生徒とか、週番の日誌にいっぱい書いてくる生徒とか、そういう類がなぜか周りに多かった気がするかな。平井:そんな人を僕は知らないです。(笑) なるほど、人気ってやっぱり、そういうものなんですよね。人それぞれに意見の合う先生って違いますからね。 煙山先生:それでいいと思います。現に、いろんな人がいないとつまらないじゃないですか。あえて言えば、生徒じゃなくて卒業生になって大人になってからのほうが面白い話ができると思います。君も二十歳になったらね。(笑) 平井:人気のある先生とは、どんな先生でしょうか? 煙山先生:やはり最初は生徒に寄り添う優しい先生の人気が高いと思います。でも男の子を扱うことを考えれば、どこかでやっぱり、大人の男になってもらわなきゃいけないと思うので、距離を取る必要も出てくるでしょう。学年が上がるにつれ、厳しいことを言う先生の人気が少し出てきたりします。また難しいことや面白いことを言って笑わせる先生ではなく、興味深いことを言ってくれる先生が高校生の間で局所的な人気を得ることもあります。6年も時間がありますから、どこかで面白い先生に出会えればいいと思います。 平井:そうですね。実際、評価がガラッと変った先生もいっぱいいますもんね。中学のときに「うるさい、あの先生は嫌だ」という先生がいっぱいいたのに、高校に入ると、逆に優しいという評価に変わった先生もいますもんね。
平井:学校の好きなところと、直したほうがいいとことを全部言っちゃってください? 煙山先生:そうね。(笑) 実はさっき、君から出てきたことだと思います。優しい生徒が多いから、何をしても許される。生徒それぞれに居場所がそれなりにあって、楽しそうにやってくれている姿を見るのはいいものです。 その一方で、ものすごく燃え上がる、青春ど真ん中みたいな生徒や、あるいは何か一つに異常に執着して、絶対これで世の中に出て行くという強い思いを持った生徒が少ないことがすごく残念です。のんびりした雰囲気とガツガツした雰囲気は相容れないのかもしれません。教員側も、のんびりした生徒たちに慣れているので、ガツガツした生徒にどれだけ対応できるのかという不安もあります。でも僕個人としては、相容れない2つの性格の生徒たちが上手く混じり合う状態にワクワク感を持っているので、そういう生徒がいっぱい出てきてほしいなと思います。生徒にも、もちろん自分にも、学校のメンバー、職員のみなさんにも、もっと頑張ってと、エールを送ります。平井:生徒それぞれの素質があるのかもしれないですね。でも、どうやったらその方向に変われるんですか? 煙山先生:難しいけど、面白いものをまず見せなきゃいけないよね。あとは小学生、中学生、高校生に大人が面白がっている姿を見せたい。 たとえば授業のなかで「こんな面白いことを知ったんだけど、君らはどう?」と、そんな話題をいくつかふってみる。その中の1個を、実際に彼らに預けてみることなのかなと思います。まさに僕が高校生だったときに担任の先生から「生徒を信頼するけど、期待するな」と言われたことに通じます。(笑)平井:(笑) 煙山先生:「それは期待を押しつけるな。生徒を信じて何かを1回預けてみる、渡してみる、それをどう使うかを本人に任せるって意味だよ。別にお前に期待していないという意味じゃないよ。」と言われた記憶がある。僕が教員を目指すと決めてからも、その先生にずいぶん言われたなぁ。信頼していないくせに期待しちゃうことが多いけど、生徒を信じてみるということがこちらの勇気としてもっと必要なんだろうと思っています。それが出来ていなくて、どうしても安全運転で過保護な部分が学校にはあるのかもしれない。
平井:浅野に進学した生徒は6年後どのように成長していますか。どんな成長を望みますか。 煙山先生:さっき言った通り、できる限りこうなってほしいと望まないようにしていました。君たちが自分で選べばいいと思っていました。でもこの間の卒業式で、ある生徒が言った言葉がすごくうれしかったんです。彼は「受験勉強が終わって久々にテレビゲームをしてみました。全然面白くなかったので勉強しました」と、言ったんです。 平井:おー! 煙山先生:その生徒は「大学合格とか何かに向かって勉強するほうがよっぽど面白いです」と言ったんです。そしたら横にいた生徒が「俺も」って相槌を打ったので、ほんとにうれしかったです。彼らは勉強しすぎて頭がおかしくなったとか、そういうわけじゃなくて。 平井:(笑) 煙山先生:何かを消費するよりも、何かに向かって努力することのほうが面白いと気がついてくれたっていうのは、本当に成長を感じましたね。その生徒が中学生のとき、たくさんの漫画の本を取り上げたけど、こんな立派なことを言うようになるんだなと、感動しました。 平井:うん。 煙山先生:その生徒は、とてもわかりやすく言ってくれた。彼はおそらく一生懸命突っ走ったから次のステージへ行けるんだと思って、僕はすごくうれしかった。この話と似たエピソードは、それぞれの生徒ごとにあるんだと思う。そして、浅野を卒業する6年後よりも大学を出た10年後、その先の20年後に、もっと面白い話を聞けたらうれしい。そのあとは、君たちが頑張ってくれればいい。
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