教育再生実行会議のメンバーでもある漆理事長は「女子にこそライフデザイン教育が必要」と語ります。「男子の人生と女子の人生は出産というイベントを境にして明らかに違うものになります。女性こそ学歴が大事なのです。ここでいう『学歴』とは学校歴ではなく、学習歴。どういう力を持っているか、将来から逆算して転職力や復職力をつけていく。男性よりも女性の方がこの力が必要です」
古くは渋谷教育学園渋谷に始まり、広尾学園(港区)や中央大学附属横浜(横浜市都筑区)など女子校から共学となることで、教育内容も人気も偏差値も大きく様変わりした学校が近年増えてきています。しかし、品川女子学院にその気はありません。「これからは、今までの大人が見たことのないような数の女性が、見たことのないような職種に、見たことのないような立場で働く時代です。今だからこそ女子に特化した教育が大切です」。これからも女子校で──女性が日本の未来を豊かに生き抜いていくための力を確かに養える学校です。
未来に必要な女子の人材については「女性の理系人材、マネジメント人材が不足しています。本校が育てたいのはしゃべれる理系と数字に強い文系です」とのこと。学校内でも工学系の大学を志願する生徒が増えてきていて、確実に理系に強い女子校になってきているという手応えがあるようです。
2018年度から実施している算数一科目入試も「成功」といえる受験者を集め、これからも「理系に強い品女」のイメージはより一層強まっていくのではないでしょうか。
「本校が大事にしている姿勢は、失敗ともめごとを生徒に提供することです。中高の守られた環境の中でできるだけ多くのことにチャレンジして失敗をしてもらいます。そして、失敗から学ぶ。また、考え方の違う人と共感力を持って働こうと思う時、妥協をしなければ必ず揉めるものです。失敗ともめごとを重ねながら様々な人たちとチームで仕事ができる人になってほしい」と漆理事長は力強くおっしゃっていました。
教職員も「8割GO」という意識を持っているようでそれを容認する風土が同校にはあります。アイデアがあったら、まずやってみる。そして、結果や効果を測って振り返り、さらに良いものにしていく、というチャレンジ精神が学院全体に浸透しています。決定までのスピード感があるのも品川女子学院のいいところです。
指定校推薦の使い方も他校とは趣を異にします。卒業生の活躍、理事長をはじめとした各先生方の尽力で600以上もの指定校推薦が同校にはあります。単純計算すると入学した時点で既に3校は推薦で行ける学校があるという状態です。しかし、漆理事長は「少ない年だと一桁。多い年でも利用者は30件いかない程度です。生徒は学科で選びますので、早稲田の理工で空きが出ることもあります」と語り、MARCHの推薦枠が5〜6枠余ることも。公立高校からすると垂涎ものですね。
指定校推薦目当てで中学・高校選びをする保護者がいますが、それはナンセンスです。何を学びたいか、どうなりたいかによって進む学部・学科は変わってきます。推薦枠の中に自分が行きたい学科がない場合、また昨年まであったはずの枠がなくなった場合、一体どうするのでしょうか。
「指定校推薦枠が多いから」という理由で学校選びをするのは親のミスリードです。大学名ではなく、やりたいことが出来る場所へ、というのが明らかに重要ですし、今後は大学進学実績よりも自己実現率の高さという指標が重要になってくるでしょう。もちろん、自分の思い描く姿と学部・学科、そして推薦条件が一致した場合はどんどん使えばいいわけですが。
そして、2017年度より高等部校長を務め、2018年度からは中学部の校長も兼任されることになった仙田校長の存在は、品川女子学院を次のステップへと進めるはずです。前職は都立三鷹中等教育学校の校長先生で適性検査型入試委員長も務められていたとのこと。三鷹中等での実績を引っ提げて品女の教育改革に着手しています。
教員や生徒との面談の回数を増やし、「品女メソッド」を導入。到達度を明確化し、教員・生徒・管理職の間で目標を共有化。模試の成果、本人の希望を総合して学習・進路指導を行ってきました。授業評価や教員研修を外部機関の力も借りて実施し、授業力の向上にも努めています。第1期生となる2018年度卒業生は国公立大学へ過去最高の23人が現役合格を果たし、私立大学の定員厳格化の中、早慶上智理科大に57名、GMARCHには111名が合格。初年度から見事な結果を出しました。
生徒たちと対話を繰り返し、希望を聞き入れながら生徒のモチベーションを高めることにも成功しています。昨年度から自習室の開館時間を高校3年生のみ20時まで延長するなど、制度を変更してでも生徒の頑張りを後押ししようとする柔軟な姿勢が、成果に繋がったと言えるでしょう。
時代を見る確かな目と柔軟かつスピード感がある漆理事長、カリスマ性・発信力・人間力を兼ね備えた実践派の仙田校長のツートップはまさに鬼に金棒。盤石の体制です。
未来社会に必要な力として「非認知能力」を挙げられていました。偏差値やIQに表れないこの力は、目標に向かって頑張る力や他の人とうまく関わる力、感情をコントロールする力などと言われています。その中でも品川女子学院では共感力(日本人のアイデンティティ)を高めるために日本文化教育のメニューを充実させています。和服や華道、茶道、礼法などを学び、日本人が日本という国で大切にしてきた価値観を身を以て感じ、今度はそれを英語でプレゼンしていくなど、内と外を同時に見据えて非認知能力を高めていくようです。
また、「デザイン思考」を身につけることも重視しています。今までの「現在ある問題を解決していくための正解を探す」という考え方ではなく、「どこに問題があるかを発見し、それに対する最適解を提示していく」というのがデザイン思考です。この「課題発見力」「正しい問いの立て方」を生徒に身につけてもらうためのプログラムが準備されています。品女の真骨頂とも言える企業コラボだけでなく、起業体験プログラムを行事の一つとして取り入れるなど、バリエーションも増えています。デザイン思考の大家であるアメリカのIDEO社の創業者から教員研修を受けており、コーチャーとしての教員の研鑽にも余念がありません。
リベラルアーツ講座として、アプリの開発やアドビ社を呼んでイラストレーターの使い方を学んだり、伊勢谷友介を呼んだり、日本史専門の仙田校長と浅草を歩いて広重の作品に触れたりと実学満載の講座がこれでもかと準備され、生徒たちの琴線を刺激し続けます。そして、さらに興味の幅を広げていくために英語を学んで世界に視野を向けさせる、というストーリーは理にかなっています。「なぜ英語を学ぶか」という理由を、生徒たちが学校活動を通して当たり前のように分かってしまう、というプログラムには脱帽です。
「世界は多様性を必要としています」そう書かれた学校紹介ポスターが校内に貼ってあります。周囲にいる仲間からも刺激を受け、多様な価値観の中で学校生活を送るために品川女子学院は入試にも変化をつけてきました。
従来型の4教科入試に加えて、2016年度から総合型入試を実施。都立で適性検査型入試委員長を務めてきた仙田校長がいるため、手探りということもありません。品女流にカスタマイズされた総合型入試が実施されています。算数・理科・社会の総合問題に加えて、課題文を呼んで自分の意見を述べる作文問題が課されます。ただし、各科目の色をそれなりに残した問題となっており、小学生段階ではやはり基礎的な教養も重要であるという判断が見え隠れしますね。
さらに、2018年度より算数1教科入試が加わりました。「しゃべれる理系・数字に強い文系」が品女生のこれからの一つのアイデンティティとなるのであれば、この入試形態も非常に筋が通っていると言えます。
垢抜けていて先進性もある品女はさぞかしまばゆく映ることでしょう。ただ、実際の学習はそんなに甘いものではありません。課題の量や定期テストごとに示される目標は非常に高く、生半可な学習では乗り越えられません。
充実した夏期講習や冬期講習は裏を返せば、「品女生は勉強するのが当たり前」という学校側からのミッションです。楽しいイベントや教育活動にばかり目がいきますが、地道な努力が積めない人は品女に行っても学校生活を謳歌することはできません。
品川女子学院に親が惚れ込むケースが多くあります。本人の意思よりも親の希望で受験を決め、通うことになった場合、不幸が待っている可能性もあるので注意が必要です。親子で納得し、楽しくも厳しい学校であることを受け止めてから受験を決めて欲しいと思います。
2020年東京オリンピックに伴う資材高騰などの理由によって、計画が遅れていた新校舎ですが、遂にスケジュールが決まりました。
2018年11月に着工し、順次出来上がったものに移動しながら空になった校舎を建て替えていきます。三つの新校舎が完成するのは2024年9月になるそうです。まだまだ先のようですが、次年度入学した場合は、数年間は真新しい校舎で学習できることは確実ですね。今でも十分綺麗ですが、少々狭くも感じる校舎が広がることは朗報です。
進化を続ける品川女子学院は、学校全体がデザイン思考を体現している生き物のようです。正解ではなく、目指す姿に向けての最適解を探り続けている──トップが学び続け、教員が成長を続け、多様な生徒が集まり始め、唯一無二の学校となる序章が幕を開けました。共学化の荒波に抗い続け、輝きを増す学院の行く末を刮目して見ていきたいと思います。興味がある方はぜひ一度お話を聞きに行ってみることを強くお勧めします。
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