取材日:2017年2月25日 インタビュイー:図書館司書 金子紗耶佳さん インタビュアー:一橋大学社会学部1年生 仲二見篤
イントロダクション 金子さん:在学中、図書館使ってた?あまり来なかったよね、確か。(笑) 仲二見:すみません。(笑)・・・ではよろしくお願いします。(笑) 金子さん:はい。(笑)司書の金子です。よろしくお願いします。
仲二見:まず所蔵数はどれくらいありますか。
金子さん:全体で約65,000冊所蔵してます。 仲二見:そんなに。 金子さん:開架で40,000冊。司書室の奥の書庫に25,000冊弱。それぐらいあります。 編集部:中高共通ですか? 金子さん:はい、中高共通です。
仲二見:同一書物で一クラス分用意されてる本はありますか? 金子さん:今はありません。昔は恐竜の図鑑とか、あと尾瀬に中学生が行くので、そのとき用の本があったのですが、現在はないです。
仲二見:では座席数はどれくらいありますか? 金子さん:閲覧室とスタディエリアを合わせて156席あります。そのうち、スタディエリアが48席です。
仲二見:生徒の、図書館の利用頻度はどれくらいですか。 金子さん:利用する生徒としない生徒とやっぱり分かれるので、全員が使ってるわけではないです。部活に集中する生徒たちもいますから。ただ昨年度は年間約20,000冊の貸し出しがありました。生徒が2,000人弱なので、単純計算すると一人10冊借りていることになります。 仲二見:多い人だと大体月にどのくらい借りていますか? 金子さん:多い生徒だと1年間で1,000冊いっちゃうかな。 仲二見:そんなに?! 金子さん:最大貸し出し冊数が5冊なんですけど、その5冊を借りて次の日返して1年で1,000冊近く読むというヘビーユーザーが何人かいます。
仲二見:生徒から、「こういう本が読みたい」っていうリクエスト、要望を反映するサービスはありますか? 金子さん:あります。こういうリクエストカードが置いてあるので。これに記入してカウンターに持ってきます。図書委員会に、図書部というリクエスト選考をする部署がありまして、その生徒たちが週に1回選考会議を開いて、桐朋図書館にとって役に立つものか選考する。それでOKだったら入れてます。 仲二見:リクエストがあった本はどれくらいの割合で購入に至るんですか? 金子さん:9割ぐらいは入ります。あとの1割は、学術的で貴重なものなどの理由でプレミアがついて高いものです。そういうものはさすがに買うのは無理なので、はじかれてしまいます。 編集部:マンガは入れてくれるんですか? 金子さん:リクエストでは入れられないです。 編集部:ライトノベルはどうですか? 金子さん:ライトノベルは難しいです。いろいろと幅が広がってきちゃったので、基本的には今あるシリーズしか入れていないです。前はマンガの横にライトノベルコーナーがあったんですけど、今は普通の文庫の書架に入れています。ライトノベルと一緒に普通の文庫も手にとってもらえるように。 編集部:マンガはリクエストでは入れないけど、図書館としては入れているのですか? 金子さん:前に保護者の方が手塚治虫の全集をどさっと寄贈してくださって。手塚治虫と『三国志』、歴史の学習マンガを中心に、そこで何とか止めてます。(笑) 編集部:まあ、ほかのとこで読めばいいですもんね。 金子さん:マンガは自分のおこづかいで買って、おうちで読んでほしいなと。(笑)
【編集部注:手塚治虫(1928-1989) 日本漫画界・アニメーション界の草分け的存在にして第一人者。多方面の作家に影響を与える。代表作に「鉄腕アトム」「ブラック・ジャック」「火の鳥」など多数。】
仲二見:生徒に人気がある貸出ベスト3を教えていただきたいです。
金子さん:昨年度の貸出は、中学生は課題図書がベスト3を占めました。(笑)第1位は岩波新書の『子どもの貧困』です。2位は『<いい子>じゃなきゃいけないの?』、3位は『ルポ 貧困大国アメリカ』。 仲二見:覚えてます。課題図書でしたね。 金子さん:一学年全体でこの課題が出たので、貸し出しが集中してランクインしました。 編集部:課題図書以外に、こういう分野、こういう本がよく貸し出されてるという特徴はありますか? 金子さん:やっぱり自然科学です。数学とか、あとは地学や動物。そういった分野が借りられてますね。岩波書店の古い数学の全集があるんですが、それを借りる生徒が絶えないです。ずっと使われていたのもあるんですけど、見た目はボロボロで。 編集部:ちょっと見せていただいてもよろしいですか。これですか? 金子さん:貸し出しが多いので傷みが激しくて、中にマーカーを引いちゃってたりとか。買い替えたいんですけど、新しい版も出ていなくて。図書館にはスタッフが3人いるんですが、皆で不思議がっています。「あのシリーズはいつも借りられるよね・・・」って。 編集部:毎年借りられるんですか? 金子さん:毎年です。今学期に入っても2、3回、違う生徒が借りています。 編集部:何ででしょうね、クラスで知ってたとか。 金子さん:いや、学年はバラバラで、高3だったり中学生だったり。正直数学の分野は詳しくないので、どれだけの学術的価値があるのかはわからないんですが。
編集部:小説とかではそういう意味で特徴的なものはありますか?司馬遼太郎とかはよく借りられてるイメージですが。 金子さん:そうですね、司馬遼太郎さんはコンスタントに借りられてます。あとミステリー物もよく借りられています。
編集部:図書館や学校で推薦図書みたいなものはあるんですか? 金子さん:先生方が授業のテーマを教えてくださるので、授業と連携した形での推薦図書が多いです。その授業に対応するよう推薦図書コーナーを作っています。森鴎外の『高瀬舟』を扱った授業のときには、それに付随した形で貨幣制度を特集して、それに江戸時代の小説もつけ加えました。
編集部:今見せていただいてもいいですか?このあたりですか? 金子さん:これは中2の環境問題を扱った授業の展示ですけど、「小説にも範囲を広げて本を並べてほしい」と先生からリクエストいただいたんです。それで電力やバリアフリーといったテーマを入れつつ、家族や労働環境をテーマにした小説など、いろいろなテーマの本を展示しました。前は授業との連携ができてなかったんですけど、最近少しずつできるようになりました。
【編集部注:司馬遼太郎(1923-1996) 歴史小説の第一人者。ロマンのある雄大な内容で人気が高い。代表作に「竜馬がゆく」「坂の上の雲」「翔ぶが如く」「街道をゆく」など多数。】 【編集部注:森鴎外(1862-1922) 明治・大正期を代表する作家の一人。東大医学部卒業後に軍医となり、のち陸軍軍医総監。代表作に「舞姫」「高瀬舟」「阿部一族」、翻訳「即興詩人」など。文学博士・医学博士。】
仲二見:ベスト3は課題図書が占める状況でしたけど、日々いろんな本にふれ合っている金子さんが生徒に読んでほしいと思う本は何ですか? 金子さん:中学生には、最近人気の天沢夏月さん。この方は人物の感情表現をすくうのがすごくうまいです。またちょうど中高生が主人公になるので、児童書から来た生徒たちが文庫や一般書に行くときに、つなぎ役を務めてくれます。天沢さんの特集をしたときはほとんど借りられちゃって、企画した私もうれしかった。ドヤ顔でした。(笑) 高校生には、香月日輪さんの「妖怪アパートの幽雅な日常」をおすすめしています。主人公も高校生になったばかりで、おばけだらけのアパートに住むっていうファンタジー設定ではあるけど、自立とか自分で考えて行動することを考えさせてくれる本でもあります。自立には責任も伴うけど、胸を張ってやれることなんだと。自分でいろんなことに挑戦する高校生にはおすすめです。 仲二見:機会があれば読んでおきます。 金子さん:ぜひ。読みやすいですよ。長くないし。(笑)
【編集部注:天沢夏月 2012年「サマー・ランサー」で第19回電撃小説大賞の選考委員奨励賞を受賞。高校生の青春模様を描いて人気がある。】
仲二見:司書さんが個人的に好きな本は何ですか?
金子さん:私は本というのは現実の問題解決の手助けをするツールだと思っているので、その時々で1番が変わっちゃうんですが、最近のベストは上田早夕里さんの「オーシャンクロニクル」シリーズ。海面が上昇して水没したあとの世界を描いています。最近の人種の多様性とか環境問題とかについて、この本の中でも結局解決はできていないんですけど、対話を続けていくこと、あきらめないことを教えてくれる本です。読み終わったあとは、すごい!って部屋で一人で震えてました。(笑)2016年に出会えて幸せな作家さんでした。 編集部:レイチェル・カーソンとかの『われらをめぐる海』とかと同じ主題なんですか? 金子さん子:そうですね、通じるところはありますが、もっとSF的な要素が入っています。最近の技術の進歩、人工知能や種の遺伝子の組み換えとか、そういったことを主題にしつつ、もしかしたら私たちが辿るかもしれない未来を描いている感じです。 仲二見:ほかに好きな作家さんはいますか。 金子さん:好きな作家さんですか。上田さんと傾向は全く違いますけど、コミックエッセイ作家のたかぎなおこさんも好きです。ランニングを始めて1年でフルマラソンに出ちゃうような方です。最近は身体を動かすことも大事だなと思って、私も真似して走ってるんですけど、つらいつらい。(笑)何で桐朋生はいつも走ってて平気なのかなって。(笑)でも生徒たちに負けないように、あと図書館の仕事は腰が大事なのでギックリ腰にならないようにと、本に励まされて頑張って鍛えています。(笑)
【編集部注:たかぎなおこ コミックエッセイ作家。代表作に「150cmライフ。」「ひとりたび1年生」「マラソン1年生」など。】
仲二見:司書さんから見てこの学校にはどういう生徒が多い印象ですか? 金子さん:まずはとにかく元気。OBだからわかってるでしょう?(笑) ある先生が「生徒は走るのがデフォルト」とおっしゃっていて納得しました。図書館にも休み時間の短い間に来てくれるので、走り込んできます。まあそれは注意するんですけど、とにかく元気で、素直ですね。 あとは周りの大人の人たちにすごく大事にされているのがわかります。「これやりなさい」って言われてるんじゃなくて、自分で楽しんでる。それでちょっと突っ走っちゃうときもあるみたいですけど、学校生活を楽しんでいて、桐朋が大好きなんだというのは見ていて感じます。ただ図書館は走らないでほしいです。(笑)
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